ネット上にある「ロバート・ワッツ氏」談から引用しながら断片的整理。
トランジェント(過渡特性)精度の問題。 トランジェントは、“時間精度”。 楽器のピッチは、音の急峻な立ち上がりと立ち下がりによって表現される。 特にベースギターが出すような低い音は、そもそもピッチを判別しにくいが、 それを正確に再現できるかどうかには、このトランジェントが大きく関わる。 音場空間の再現や定位においても、トランジェントは重要。 人間は音が聞こえる方向や位置を、左右の耳にその音が届く際の時間差 によって聴き分ける。そのごくわずかな“時間差”を高い精度で再現できる かという意味で、定位においても重要なのは「トランジェント」である。 楽器の音色についても、トランジェントが強く関係している。 楽器そのものの明るさや暗さの判別に、トランジェントが影響する。 当然ながら音符の再現、楽音の始まりと終わりを正確に再現できるかどう かも、時間精度が左右している。 デジタルオーディオの問題というのは結局、離散的なタイミングでサンプル されたデータを、時間軸上にいかに正確に復元できるかだ。 一般的なDACチップとそれが含有するデジタルフィルターで、この復元を 正確に行うには処理能力的にも限界がある。 だから時間軸で精度が低く、密度の低いサンプルしか作れない。 アナログ信号への復元を単純なデジタルフィルターで行うと、トランジェント 特性から考えエラーを伴う波形になってしまう。ここで言うエラーは、100マ イクロ秒以上のタイミングの誤差というかたちで現れる。 では、現実にはどのような処理によって、この時間精度の正確な再現を実 現するのだろうか。シャノンの標本化定理が示す通り、無限に近づくように 処理を増やしていけば、音質を向上させることができる。そのために開発 されたのが、CHORD独自開発の「WTAフィルター」である。 DAC64の開発に際して、デジタルフィルターのアルゴリズムを徹底的に 検討された。ここで、現在に至る補間フィルターのレシピができた。 ポイントはいかに効率的に処理を行うかということ。サンプルしたデータが 22ミリ秒であれ、2ピコ秒であろうと、復元することは可能である。 こうして完成されたWTAフィルターは、FPGAの進化もあり、手のひらに 収まるサイズのMojoにも搭載できるようになった。このMojoが備える デジタルフィルターでさえ、通常のDACの500倍の処理能力を持つ。 Mojoは設計に3年間の月日を要したとのこと。 当然ながら、先行して登場したポータブルDAC Hugoで完成された 技術も大きく関係している。Mojoにおいては特に、動作効率を極限まで 高めて、どこまで省電力化できるかがキーポイントになった。 Mojoの大きな飛躍を実現したのは、Xilinx社の新世代Artix7 FPGA。 このチップは省電力での動作が可能。 比較的ローコストで入手ができる。こうして、Hugoで実現した ことが、その半分以下のサイズのDACで可能になったのだ。 また、Mojoにおいてはバッテリー技術の進化も重要だった。 Mojoにおける処理の規模は大きく、かつ筐体は非常に小さいため、 安定した恒温動作が可能なバッテリーの開発が求められた。 ジョンから求められたのは、Mojoのサイズと価格。 Hugo並の音質と音楽性を維持せよというもの。 そして感度の高いイヤホンから駆動力の必要 な大型ヘッドホンまで、十分に駆動できる出力も必須だった。 もうひとつキーになったのは「低雑音性能」だったとのこと。 感度の高いイヤホンにおいても、満足できるノイズレベルを実現するた めに、低雑音性能のさらなる強化は必須だった。 Mojoにおいては、雑音出力が3μVという超低雑音を実現。 さらにはTHD+Nが0.00017%@3Vという超低歪。 ダイナミックレンジが125dBという驚異的な特性。 次にDAVE DACの目的は、単にデジタル信号をアナログ信号にするだけではない。 “A/Dコンバーターに入ってきたアナログ信号に復元する”ことが重要。 WTAフィルターでタップ数(演算数)を増やすことで、時間領域の精度 を上げていけば、音質を向上させることができる。 DAVEには、164,000タップという莫大な処理を行うWTAフィルターが 実装された。 Hugoの26,000タップと比べると、その処理の大きさがわかる。 そして、処理のアルゴリズムについても、タップ数の多さに適合で きるような改善が施された。 ちなみに通常のDACにおけるタップ数は100タップ程度。 DAVEにおいて、これだけ巨大な処理が可能なFPGAを使えるきっかけ となったのは、Hugoにおける予想を超えた音質改善が背景にあった。 ポータブルモデルであるHugoが旗艦モデルでさらなる高みを目指す。 Hugoのときには、時間精度はミリ秒程度で十分だと考えられていた。 しかし、実際には、ナノ秒領域での時間精度が重要。 DAVEのWTAフィルターでは、サンプリング周波数の256倍のFIRフィ ルターが機能する。通常のDACでは8倍や16倍程度。 これにより、88ナノ秒の頻度でのサンプル生成が可能になった。 また、この後段において最終的に2,048倍のオーバーサンプリング処理 が行われ、9.6ナノ秒ごとのサンプルが生成される。 こうした莫大な処理を実現するために、166個のDSPコアが並列駆動。 こうした処理により、アナログ波形に相当する密度を持ち、かつノイズの ない、正確な時間精度を持つデジタルデータを生成。 このデータを受けとってアナログに変換するのが、パルスアレイDAC。 DAVEの音質を決定づける上で、大きな役割を果たしたのが、全46積 分回路を採用した新設計の17次ノイズシェーパー。 HugoやMojoでも200dBという歪率を実現する高性能なノイズシェーパ ーが実装されている。しかし、Hugoのノイズシェイパーを開発している中 で、そのパラメーターの変化によって、大きな音質的作用があることがわ かってきた。特に音場の奥行き表現に与える影響が大きかったのだという。 「私は10代の頃から、音の奥行き感の再現について大きな興味を持ってい ました。例えば、教会で100m先に設置されたオルガンの音を聴くとしまし ょう。目をつぶってその音を聴くと、やはり試聴位置のはるか先にオルガン があることが認識できます。しかし、それがスピーカーによる再現になると、 残響は表現されていても、距離的にはスピーカーの中央にオルガンが定位 してしまう。オーディオにおいて自然な奥行き感をいかに取り戻すのか、そ れが長年の関心事だった」(ワッツ氏) 脳がある音を認識するとき、残響や反射音などの様々な情報によって位置 を認識する。しかし、こうした間接成分の音は、レベルが非常に小さい。これ をどれだけ正確に取り戻すかを左右するのが、ノイズシェーパーなのだ。 DAVEのノイズシェーパーの開発には90日を要した。 結果的には350dBという歪率を達成した。 46積分回路を用いた17次ノイズシェーパーの巨大処理回路で、この部分だ けでもHugoのFPGAには収まりきらない回路規模。 さらにDAVEにおけるジッター測定値。 DAVEのジッターは1ピコ秒の1/1000レベルに抑えられている。 これは『ジッターがない』と言ってよいレベル。 CHORDのDACは、雑音変調が測定できないレベルにある。 技術的には世界の最先端。 これは、DACの測定性能の再定義を促すもの。 追記 DAVE デジタル処理チャート 1、44.1khz/24bitのデジタル信号入力 2、WTAフィルター1のFIRフィルターで16倍オーバーサンプリング 3、WTAフィルター2のFIRフィルターでさらに16倍オーバーサンプリング 4、つまり16×16=256倍のFIRフィルターを搭載し、 5、164000タップWTAフィルターを構成 6、166個のDSPが並列駆動する規模 7、さらにインターボレーションフィルターで8倍オーバーサンプリング 8、合計16×16×8=2048倍オーバーサンプリング 9、17次ノイズシェーパー処理 10、最後にホットとコールド各10個の精密抵抗使用でパルスアレイDACでDA変換 また、マスタークロックには104MHzの高精度低位相ノイズの水晶発振器を一個使用。
by yskkyhh3
| 2016-06-06 05:45
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